もっと自己紹介
そうだな、一時間くらいそこに座っていたかな。
それからやっとこさ僕は決心したんだ。
このままどっか遠くに行ってしまおうって。
うちになんか戻らないし、ほかの学校に行くのもお断りだ。
ただフィービーにだけは会わなくては。
彼女に会ってさよならみたいなのを言って、クリスマスのお小遣いを返して、そのあとでヒッチハイクで西部に向かうんだ。
どうするかっていうと、ホランド・トンネルの方まで歩いていって、そこで車に乗っけてもらう。
それから次の車、また次の車、また次の車という具合に乗り継いで、数日後には西部のどっかにいるっていうわけだ。
すごく感じよくて、太陽がさんさんと照っていて、僕のことを知っている人間なんて誰ひとりいない場所に行って、そこで仕事をみつけるんだ。
ガソリン・スタンドの仕事ならでぎるんじゃないかと思った。みんなの車にガソリンやらオイルやらを入れたりするわけだよ。
でもべつにどんな仕事だってかまわないんだ。そこが誰ひとり僕のことを知らず、僕の方も誰のことも知らない場所であるならね。
そこで何をするつもりだったかっていうとさ、聾唖者のふりをしようと思ったんだ。
そうすれば誰とも、意味のない愚かしい会話をかわす必要がなくなるじゃないか。
誰かが僕に何か言いたいと思ったら、いちいちそれを紙に書いて手渡さなくちゃならないわけだ。
しばらくそんなことを続けたら、みんなけっこううんざりしちゃうだろうし、あとはもう一生誰ともしゃべらなくていいってことになっちゃうはずだ。
みんなは僕のことを気の毒な聾唖者だと思って相手にもせず、放っておいてくれるだろう。
僕はみんなの間抜けな車にガソリンやらオイルを黙々と入れ続ける。
僕は給料をもらい、その給料を貯めてどっかに小さな自分の小屋を建て、そこで一生を終えるんだ。
森のすぐわぎに小屋を建てよう。森の中に建てるんじゃないよ。
なぜかっていうとその家はいつもぎんぎんに日が当たってなくちゃならないからだ。
食事はぜんぶ自分で作る。
それからいつか、もし結婚しようというような気になったらっていうことだけど、美しい聾唖者の娘とめぐりあって結婚するんだ。彼女はその小屋で僕と一緒に暮らすわけ。
そしてもし僕に何かを言いたいと思ったら、彼女もやはりろくでもない紙にいちいち書かなくちゃならない。ほかのみんなと同じようにね。
もし子どもたちが生まれたら、僕らは子どもたちを世間から隠しちゃうんだ。そして山ほど本を買い与えて、自分たちで読み書きを教える。